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元請けに嫌われずに主張を通すには?建設業社長のための交渉術


「この値段じゃ、正直キツいんだけど、断ったら次の仕事もらえないかも…」
「支払いサイト、もう少し短くしてくれたら助かるんだけど、言い出しにくいなぁ…」
「これ、追加工事になると思うんだけど、どこまでサービスでやるべきか…」

元請けさんとの関係、建設業の社長さんにとっては本当に悩ましい問題ですよね。仕事をもらっている立場だから強く言えない、長年の付き合いだから波風立てたくない…。でも、会社の利益や資金繰りを考えると、言うべきことは言わなければならない場面もたくさんあります。本当にお疲れ様です。

「嫌われたくないけど、主張はしたい!」
そんな板挟みの状況で、どうすればうまく立ち回れるのでしょうか?

この記事では、元請けさんとの良好な関係を保ちつつ、自社の主張を上手に伝えるための「嫌われない交渉術」のヒントを、具体的な場面を想定しながらご紹介します。特別な話術は必要ありません。ちょっとした心構えと伝え方の工夫で、状況は変えられるかもしれませんよ。

なぜ元請けとの交渉は「やりにくい」のか?

まず、なぜ元請けさんとの交渉が難しいと感じるのか、その理由を整理してみましょう。きっと、多くの社長さんが「うんうん」と頷かれるはずです。

  • 仕事をもらう立場という「力関係」: どうしても「お願いする」側になりがちで、対等な交渉がしにくい。
  • 長年の付き合いや「人情」: 「あの人には世話になっているから…」と、言いたいことを我慢してしまう。
  • 「波風を立てたくない」という心理: 関係が悪くなることを恐れて、無理な要求でも飲んでしまうことがある。
  • 建設業界特有の「なあなあ」な部分: 見積もりや指示が曖昧なまま進み、後で「言った・言わない」のトラブルになりやすい。
  • 相手の担当者の状況: 元請けの担当者も、さらに上の会社や施主との間で板挟みになっている可能性がある。

これらの背景があるからこそ、ただストレートに自分の要求をぶつけるだけでは、関係がこじれてしまう可能性が高いのです。では、どうすれば良いのでしょうか?

交渉の基本マインド:「敵」ではなく「パートナー」として向き合う

まず大切なのは、交渉の相手を「敵」ではなく、「一緒に仕事を進めるパートナー」と捉えることです。こちらが一方的に得をしようとしたり、相手を言い負かそうとしたりする姿勢では、良い結果は生まれません。目指すべきは、お互いが納得できる着地点(Win-Win)を見つけることです。

そのために、こんな心構えを持ってみましょう。

  • 感情的にならない(冷静さを保つ):
    カチンとくることを言われたり、理不尽だと感じたりしても、すぐに感情を表に出さない。「売り言葉に買い言葉」は絶対に避けましょう。深呼吸ひとつで、冷静さを取り戻すクセをつけるだけでも違います。(アンガーマネジメントの考え方も参考に)
  • 相手の立場も想像してみる:
    「なぜ、元請けさんはこんなことを言ってくるんだろう?」と考えてみましょう。もしかしたら、元請けさん自身も厳しい状況にあるのかもしれません。相手の事情を少しでも理解しようとする姿勢が、交渉の糸口になることもあります。
  • 「お願い」と「主張」を使い分ける:
    全てを「お願い」ベースでへりくだる必要はありませんが、譲歩をお願いする場合は低姿勢で、正当な権利を主張する場面では毅然とした態度で、と使い分ける意識を持つことが大切です。

【場面別】嫌われずに「No」や「お願い」を伝えるコツ

では、具体的な交渉場面で使える、ちょっとした伝え方の工夫を見ていきましょう。

① 値引き要求された時:「できません」をどう伝えるか?

一番多い悩みかもしれませんね。単に「できません!」と突っぱねるのではなく、「なぜできないのか」という根拠を丁寧に説明することが重要です。

  • 根拠を示す:
    「この工事ですと、材料費だけで〇〇円、人件費で〇〇円はどうしてもかかってしまいまして…」「最近の〇〇(材料名)の高騰が厳しく、この金額ですと正直、赤字になってしまいます」など、具体的な数字や理由を添えて説明します。見積もりの内訳をきちんと作っておくことが、ここでも役立ちます。
    → [赤字工事よ、さようなら!見積もり精度を“ちょっと”上げる現実的なコツ]へのリンク
  • 代替案を提示する:
    「申し訳ありません、この金額での値引きは難しいのですが、例えば〇〇の仕様を少し変更させていただければ、△△円ほどコストダウンできますがいかがでしょうか?」「工期を〇日調整させていただけるなら、もう少し頑張れるかもしれません」など、相手にもメリットがあるような提案ができないか考えてみましょう。
  • 誠実な姿勢を見せる:
    無理な値引きには応じられない場合でも、「ご期待に沿えず申し訳ありません」「なんとかご協力したい気持ちはあるのですが…」といった、相手の要望に応えたい気持ちがあることを伝えるだけでも、印象は大きく変わります。

② 支払い条件の改善をお願いしたい時(例:支払いサイト短縮)

これも言い出しにくいテーマですが、会社のキャッシュフローにとっては死活問題にもなり得ます。

  • 「お願い」ベースで正直に:
    「大変恐縮なのですが、最近、仕入れの支払いが早まっておりまして、もし可能であれば、支払いサイトを少しだけ短縮していただくことは難しいでしょうか…?」など、あくまで「お願い」「相談」という形で、自社の状況を正直に伝えてみましょう。
  • タイミングを見計らう:
    いつもお願いするのではなく、新規の契約を結ぶ時や、契約更新のタイミング、あるいは何かで元請けさんに貢献できた後など、比較的言い出しやすいタイミングを狙うのも手です。
  • 一度で諦めない(でも、しつこくはしない):
    一度断られても、すぐに諦める必要はありません。ただし、何度も同じことを繰り返し要求するのは逆効果。関係性を見ながら、また別の機会に、違う角度から相談してみる、といった粘り強さも時には必要です。

③ 追加工事・仕様変更の請求をする時:「言った・言わない」を防ぐ

現場ではつきものの追加や変更。ここを曖昧にしておくと、後で大きなトラブルになりかねません。

  • 「記録」を残す意識を:
    口頭での指示だけでなく、必ずメールや簡単な指示書、打ち合わせメモなどで「いつ、誰から、どんな指示があったか」を残すようにしましょう。変更箇所の写真なども有効な証拠になります。
  • 速やかに報告・相談:
    追加や変更が必要になった時点で、「これは追加費用〇〇円と、工期〇日の延長が必要になりますが、よろしいでしょうか?」と、すぐに元請けの担当者に報告し、確認(できれば書面で承認)を得ることが鉄則です。後になってから「実は追加費用がかかりました」では、相手も困ってしまいます。
  • 「サービス」の線引きを意識する:
    多少の手間ならサービスで…という気持ちも分かりますが、どこまでが無償で、どこからが有償なのか、自分の中である程度の線引きを持っておくことが大切です。毎回安易にサービスしていると、それが当たり前だと思われてしまう可能性も。

結局、一番の武器は「日頃の信頼関係」

ここまで交渉のコツをお伝えしてきましたが、結局のところ、一番の武器は、日頃から元請けさんと築いている「信頼関係」です。

  • 当たり前の「報・連・相」を丁寧に: 進捗状況の報告、問題発生時の連絡、不明点の相談などを、こまめに、正確に行う。
  • 期待以上の「品質」を提供する: 「あの会社に頼めば、しっかりした仕事をしてくれる」と思ってもらう。
  • 「納期」や「約束」をきちんと守る: 当たり前のことですが、これが信頼の基本です。
  • 「ありがとう」を伝える: 仕事をもらえたこと、スムーズに協力してもらえたことなど、感謝の気持ちを言葉で伝える。

普段からこのようなコミュニケーションを心がけ、良い関係を築けていれば、いざという時にこちらの主張やお願いも、聞いてもらいやすくなるものです。

まとめ:言うべきことは「言い方」を工夫して伝えよう

元請けさんとの関係は、建設業の社長にとって永遠のテーマかもしれません。しかし、「どうせ言っても無駄だ」「嫌われたくないから我慢しよう」と諦めてしまう前に、できることはあります。

大切なのは、相手を「敵」ではなく「パートナー」と捉え、感情的にならず、「なぜそうなのか」という根拠を示しながら、相手の状況も考慮した「伝え方」を工夫することです。そして何より、日頃からの丁寧な仕事とコミュニケーションで、揺るぎない信頼関係を築いておくこと。

言うべきことを、上手に伝える。それは、会社の利益を守り、健全な関係を長く続けるために、社長に必要なスキルの一つです。ぜひ、今日から少しずつ意識してみてください。応援しています!


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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対するアドバイスではありません。交渉や契約に関する最終的な判断は、ご自身の責任において、必要に応じて専門家にご相談ください。

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