「ウチの〇〇さん(ベテラン職人)が辞めちゃったら、あの難しい納まり、誰ができるんだろう…」
「若いヤツらに技術を教えたいんだけど、あの人の”勘”みたいなものは、どうやったら伝えられるんだ?」
「ベテランの経験や知恵を、なんとか会社の財産として残したいんだけどなぁ…」
長年、会社を支えてきてくれたベテラン職人さん。その経験と勘、そして言葉にしにくい熟練の技は、まさに会社の宝ですよね。しかし、その「宝」も、いつかは引退や高齢化によって失われてしまうかもしれない…。社長として、そんな不安を感じることはありませんか? 本当にお疲れ様です。
特に建設業では、現場ごとに状況が違い、マニュアルだけでは対応できない場面が数多くあります。そんな時に頼りになるのが、ベテランの持つ「暗黙知(あんもくち)」と呼ばれる、経験に裏打ちされた知識やコツです。
この記事では、失われつつある貴重な技術やノウハウ、つまり「暗黙知」を、どうすれば次世代に繋ぎ、会社の力として残していけるのか、そのための具体的なアイデアと、社長として大切にしたい心構えについてご紹介します。「ウチには無理かも…」と諦める前に、できることがきっとあるはずです。
そもそも「暗黙知」って何? なぜ継承が難しい?
「暗黙知」とは、簡単に言うと「言葉で説明するのが難しい、経験や勘に基づく知識やスキル」のことです。「身体で覚えた感覚」「長年の経験からくる判断」「言葉にしにくいコツ」などがこれにあたります。
建設現場では、
- 図面にはない微妙な調整
- 天候や材料の状態に応じた臨機応変な対応
- トラブルを未然に防ぐための「予感」
など、まさに暗黙知が活きる場面がたくさんあります。これらは、会社の品質や生産性を支える重要な要素です。
しかし、この暗黙知、継承するのが非常に難しい。なぜなら…
- 本人も言語化できない: 長年の経験で無意識にやっていることが多く、本人自身「なぜそうするのか」を言葉で説明できない場合がある。
- 教える時間がない・機会がない: 現場は常に忙しく、じっくり教える時間を確保するのが難しい。
- 「見て覚えろ」文化の名残: そもそも「教える」という文化が薄く、「技は盗むもの」という意識が残っている場合がある。
- 若手が質問しにくい雰囲気: ベテランの職人さんに「こんなこと聞いてもいいのかな…」と若手が遠慮してしまう。
これらの理由で、貴重なノウハウが個人の頭の中や身体の中に留まったまま、次世代に伝わらないケースが多いのです。
技術継承の第一歩は「リスペクト」から!
「よし、技術を継承しよう!」と思い立っても、いきなり「ノウハウを教えろ!」では、ベテラン職人さんのプライドを傷つけたり、反発を招いたりしかねません。
まず何よりも大切なのは、ベテラン職人さんへの「敬意(リスペクト)」を示すことです。
- これまでの功績に感謝を伝える: 「〇〇さんのおかげで、これまで会社はやってこられた」「いつも難しい現場を納めてくれて本当に助かっています」など、具体的な言葉で感謝と尊敬の念を伝えましょう。
- プライドを尊重する: 彼らが長年培ってきた技術や経験は、誇りそのものです。決して軽んじたり、否定したりするような態度は取らないこと。
- 「教えていただく」という謙虚な姿勢: 上から目線ではなく、「〇〇さんの知恵を、ぜひ若い世代に残していきたいので、力を貸していただけませんか?」と、協力をお願いする姿勢が大切です。
- 技術継承の重要性を共有する: なぜ今、技術を継承する必要があるのか、それが会社の未来にとってどれだけ重要なのかを、丁寧に説明し、理解と共感を求めましょう。
信頼関係がなければ、心を開いて技術を教えてくれることはありません。まず、敬意と感謝を伝えることから始めましょう。
暗黙知を「見える化」&「共有」するアイデア5選
信頼関係を築いた上で、いよいよ暗黙知を「引き出す」「見える化する」「共有する」ための具体的なアクションです。完璧を目指さず、できることから試してみましょう。
①【見て、聞いて、真似る】一緒に作業する時間を意図的に増やす
結局のところ、一番効果的なのは、若手がベテランのそばで「一緒に作業する」ことです。
- OJTの深化版: ただ作業を手伝わせるだけでなく、ベテランの動きをじっくり観察させ、「なぜ今、そうしたんですか?」「この場合はどう判断するんですか?」と質問しやすい雰囲気を作ることが重要。
- ペア・チーム制: 新しい現場や難易度の高い作業には、意図的にベテランと若手を組ませる機会を作りましょう。
②【話してもらう】インタビュー&聞き書き
ベテラン職人さんに、過去の経験談や仕事のコツについて「話してもらう」場を設けます。
- 社長や若手が聞き役に: 「あの時の難しい現場、どうやって乗り越えたんですか?」「〇〇作業の時、一番気をつけていることは何ですか?」など、具体的な質問を投げかけ、じっくり話を聞きましょう。
- 録音・録画も活用: 話した内容を忘れないように、スマホなどで音声録音や動画撮影しておくのも有効です(もちろん、事前に許可を得て!)。後で文字に起こしたり、要点をまとめたりする際に役立ちます。
③【記録に残す】写真・動画で「技のポイント」を撮る
言葉で説明しにくい部分は、視覚的に記録するのが効果的です。
- スマホでOK!: 特別な機材は不要。作業の重要なポイントや、コツが必要な手の動きなどを、写真や短い動画で撮影します。
- 簡単な説明を添える: 撮影した写真や動画に、「ここの角度が重要」「この道具を使うとやりやすい」など、簡単な説明文やテロップを加えるだけで、立派な教材になります。
④【学び合う場を作る】プチ勉強会・事例共有会
かしこまった研修である必要はありません。
- ベテランが先生役: 特定の技術や過去のトラブル事例などについて、ベテランに講師役をお願いし、若手に経験を語ってもらう場を設けます。
- 雑談形式でもOK: 休憩時間や作業後に、みんなでお茶でも飲みながら、「あの現場ではこんな工夫をした」「昔はこんな失敗があった」といった話を共有するだけでも、貴重な学びの機会になります。
⑤【形にする】簡単マニュアル作りへの協力依頼
ベテランの知識を、整理して形にするお手伝いをお願いします。
- 「後輩のために」という大義名分: 「〇〇さんのあの技、後輩たちがいつでも見返せるように、簡単な手順書にまとめたいんですが、協力してもらえませんか?」とお願いしてみましょう。
- 若手が作成し、ベテランが監修: 若手がマニュアルのたたき台を作り、ベテランにチェック・修正してもらうという方法も、双方にとって学びになります。
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技術継承は、会社全体の活性化にも繋がる!
暗黙知の継承に取り組むことは、単に技術を残すだけでなく、会社全体に良い影響を与えます。
- 若手の成長スピード加速: 先人の知恵を効率的に学ぶことで、若手のスキルアップが早まります。
- ベテランのモチベーション向上: 自分の知識や経験が役立つことを実感し、承認されることで、ベテラン自身のやりがいや誇りにも繋がります。
- 組織全体のコミュニケーション活性化: 技術継承をきっかけに、世代間の対話が増え、風通しの良い組織風土が醸成されます。
→ 関連記事: [(仮)社長の想い、ちゃんと届いてる?会社の一体感を“ぐっと”高める方法]
まとめ:諦めずに、根気強く。未来への種を蒔こう
ベテラン職人の持つ「暗黙知」は、一朝一夕に引き出し、継承できるものではありません。時間も手間もかかりますし、根気も必要です。
しかし、それを諦めてしまえば、会社の貴重な財産は失われ、将来の競争力にも影響が出かねません。
大切なのは、ベテランへの敬意を忘れず、様々な方法を試しながら、諦めずに取り組み続けること。そして、技術継承を特定の個人の問題ではなく、会社全体の課題として捉え、組織的にサポートしていくことです。
ベテランの知恵と若手のエネルギーが融合し、共に成長していける会社。そんな未来への種まきを、今日から始めてみませんか?
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対するアドバイスではありません。技術継承や人材育成に関する最終的な判断は、ご自身の責任において、必要に応じて専門家にご相談ください。