「おい、足元気をつけろよ!」
「あぶねー! ちょっと待て!」
現場で飛び交う、ヒヤッとするような声。建設現場で働く以上、大小さまざまな危険と隣り合わせなのは、社長さんが一番よくご存知のはずです。幸い事故には至らなくても、「危なかった!」という瞬間(ヒヤリハット)は、日常的に起こっているのではないでしょうか?
「ウチは今まで大きな事故はないから大丈夫」
「職人たちもベテランが多いし、安全には気をつけてるはずだ」
そう思っていても、事故は本当に些細な油断や慣れから、ある日突然起こります。そして、ひとたび事故が起これば、大切な従業員が傷つくだけでなく、会社の信用は失墜し、経営そのものが立ち行かなくなることだってあります。
この記事では、建設現場の「危なかった!」を限りなくゼロに近づけるために、社長がリーダーシップを発揮して「今すぐ」やるべきこと、そして形骸化しがちな安全活動のマンネリを打破するヒントについて、現場目線で具体的にお伝えします。従業員の命と会社の未来を守るために、一緒に考えていきましょう。
なぜ「ヒヤリハット」は繰り返されるのか? 事故の芽は日常に潜む
「あの時、一歩間違えたら…」というヒヤリハット。なぜ、同じような危険な状況が繰り返されてしまうのでしょうか?
- 「慣れ」と「油断」: いつもやっている作業だから、このくらいの高さなら大丈夫だろう…そんな「慣れ」が、基本的な安全手順の省略や確認不足につながります。
- コミュニケーション不足: 「たぶん、伝わっているだろう」「言わなくても分かるはず」という思い込みが、連携ミスや危険な状況の見逃しを生みます。
- 「まあ、いいか」の積み重ね: ちょっとしたルール違反や手抜き作業。「自分くらいは大丈夫だろう」という甘い考えが、大きな事故の引き金になることがあります。
- 忙しさによる焦り: 工期に追われたり、人手が足りなかったりすると、どうしても焦りが生まれ、安全確認がおろそかになりがちです。
- 「自分は大丈夫」という過信: 特に経験豊富なベテランほど、「自分は事故なんて起こさない」と思い込んでしまう傾向があります。
これらの要因は、どこの現場にも潜んでいる可能性があります。「ウチは大丈夫」という思い込みを捨て、常に「危険は潜んでいる」という意識を持つことが、事故防止の第一歩です。
そのKY活動、マンネリ化してませんか? 安全活動を見直そう
事故を防ぐために、多くの現場でKY(危険予知)活動や安全パトロールが行われていますよね。でも、こんな状況になっていませんか?
- KY活動が形骸化: 毎日同じような内容を読み上げるだけ、危険を真剣に考えず「はい、OK!」で終わってしまっている。
- 安全パトロールが「見回り」だけ: 指摘する項目がいつも同じ、具体的な改善に繋がらず、ただ歩いてチェックするだけになっている。
- 「またか…」という雰囲気: 職人さんたちが安全活動を「面倒なもの」「形式的なもの」と捉えてしまい、真剣に取り組む意欲が薄れている。
せっかく時間を使って安全活動を行っても、それがマンネリ化し、形だけになってしまっては意味がありません。どうすれば、これらの活動を「生きたもの」にできるのでしょうか?
【KY活動 マンネリ打破のヒント】
- テーマを具体的に絞る: 「今日の作業で、特に注意すべき危険ポイントはどこか?」を具体的に考えさせる。例:「この高所作業で一番怖いのは?」「この重機を使う上で、一番やりがちな不安全行動は?」
- 職人さん自身に考えさせる: リーダーが一方的に話すだけでなく、参加者全員に「自分だったらどうするか?」を発言してもらう。少人数のグループで話し合うのも効果的。
- ヒヤリハット事例を共有する: 実際に現場で起きた「危なかった!」事例を匿名で共有し、「なぜ起きたのか?」「どうすれば防げたか?」をみんなで考える。
- 写真やイラストを活用する: 文字だけでなく、危険箇所や正しい手順を示した写真・イラストを使うと、イメージしやすく理解が深まる。
【安全パトロール 活性化のヒント】
- 視点を変えてみる: いつもと違う時間帯に実施する、普段あまり見ない場所(資材置き場、仮設トイレ周りなど)もチェックする、職人さんの目線で危険を探してみる。
- 職人さんと一緒にパトロールする: 担当者だけでなく、現場の職人さんにも参加してもらい、彼らの視点からの危険箇所や改善提案を聞く。
- 「良い点」も積極的に見つけて褒める: 危険箇所を指摘するだけでなく、「ここは整理整頓が徹底されていて素晴らしい!」「〇〇さんの安全帯の使い方は模範的だ!」など、良い点を見つけて褒めることで、全体のモチベーションが上がる。
- 指摘事項は必ずフォローアップ: 指摘した内容が、その後どう改善されたのかを確認し、結果をフィードバックする。「言いっぱなし」にしないことが重要。
事故を防ぐカギは「安全文化」の醸成にあり!
KY活動や安全パトロールといった個別の取り組みも大切ですが、もっと根本的なのは、会社全体に「安全を最優先する文化」を根付かせることです。「安全文化」とは、ルールを守るのが当たり前、危険なことは見て見ぬふりしない、安全のためなら意見を言いやすい、そんな組織風土のことです。
この「安全文化」を作る上で、社長の役割は非常に大きいです。
- 社長の強いコミットメント: 社長自身が「安全は全てに優先する」という強い意志を持ち、それを繰り返し従業員に伝え、行動で示すこと。安全に関する予算や時間を惜しまない姿勢を見せることも重要です。
- ルール遵守の徹底: 「これくらいなら…」という妥協を許さず、基本的な安全ルール(ヘルメット・安全帯の着用、作業手順の遵守など)を全員が守ることを徹底する。違反には毅然とした対応も必要。
- オープンなコミュニケーション: 職人さんが「危ない!」と感じたことや、「もっとこうすれば安全では?」という改善提案を、気軽に社長やリーダーに言える雰囲気を作ること。
→ 関連記事: [「次も、あの会社で!」と指名される現場の“空気感”はどう作る?] - 安全教育への投資: 新人教育はもちろん、ベテランも含めて定期的に安全に関する研修や勉強会を実施し、知識や意識をアップデートしていく。(安全への投資は、長い目で見れば必ず会社にプラスになります)
社長が「今すぐ」やるべき3つのこと
「よし、安全にもっと力を入れよう!」
そう決意してくださった社長さんへ。まずは、今日からでもできることから始めてみませんか?
- 現場に出て、職人さんの声を聞く: 机上の空論ではなく、実際に現場に足を運び、「今、何が危ないと感じるか?」「困っていることはないか?」と、職人さん一人ひとりの生の声に耳を傾けてみましょう。思わぬ危険の芽や改善のヒントが見つかるかもしれません。
- 次回のKY活動で、一つだけ「新しい試み」を提案する: いつもと同じやり方ではなく、「今日は〇〇について、みんなで意見を出し合ってみよう!」など、マンネリ打破のヒントを参考に、何か一つ新しい要素を取り入れてみましょう。
- 「安全はコストじゃない、未来への投資だ」と宣言する: 朝礼やミーティングの場で、社長自身の言葉で、安全に対する強い思いと、従業員の命を守ることの重要性を改めて伝えましょう。「会社はみんなの安全を本気で考えている」というメッセージが、現場の意識を変えるきっかけになります。
まとめ:従業員の笑顔を守ることが、会社の未来を守ること
建設現場の事故は、絶対に起こしてはなりません。それは、法律や規則で決められているから、というだけではありません。何よりも、一緒に働く大切な従業員の命と健康、そしてその家族の幸せを守るためです。
安全対策は、時に面倒に感じられたり、コストがかかると思われたりするかもしれません。しかし、それは未来への「投資」です。安全な職場環境は、従業員の安心感とモチベーションを高め、結果的に生産性の向上や会社の評判にも繋がっていきます。
社長が先頭に立ち、安全への強い意志を示すこと。そして、現場の職人さんと一緒になって、地道な活動を続け、「安全文化」を築き上げていくこと。それが、「危なかった!」をゼロに近づける、一番確実な道です。
従業員が毎日笑顔で「ただいま」と家に帰れる会社。そんな、安全で働きがいのある会社を、一緒に作っていきましょう。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対するアドバイスではありません。具体的な安全対策の実施にあたっては、労働安全衛生法等の関連法令を遵守し、必要に応じて専門家にご相談ください。